フルマラソン

私にはフルマラソンなど縁がないと思っていた。

登山には何度か挑戦したことがある。

しかし、ひたすら登頂に向けて邁進し、満身創痍になった末得られるものの価値を理解する美的感覚が私には欠けていたため、そこまでのめりこめなかった。

フルマラソンも登山と同様の美的感覚を求められるスポーツといえる。

よって私はフルマラソンをしようと思ったことはなかったのだが、研究室のメンバーに誘われて魔がさした私はフルマラソンに挑戦する気になってしまった。私は長期的な体力には自身があり、フルマラソンも軽くできるのだろうなと思っていた。

 

練習としては今年の1月から最低でも週に1回は6km走るようにしてきた。

6kmだと体が温まってきて、気持ちいいところで走るのを終えることができる。

ここでまた私は勘違いした。6kmでまだまだ走れるのだから、20kmも軽く走って、あとは根性で走り切れるなと思った。

 

そして迎えた本番1週間前。

私はハーフマラソンに挑戦することにした。コースは本番と同じコースを利用することにした。

14時スタート。目標タイムは2時間である。

快調なスタートを切った私は、目標タイムを上回るペースを5kmまで維持した。

だがここで走りに陰りが。そう、横腹が痛くなってきたのである。自分の脚力、スタミナに見合わないペースであったためである。またその日の朝食がバナナとプロテインのみというのもまずかったのだろう。おなかもすいてきた。のども乾いた。ひたすら苦しいのである。一定の距離を走ると橋が見えるので、あの橋まで走ろう。その橋を超えると、また次の橋を探して、次はあそこまで走ろうとし、モチベーションを保つ努力をした。

 

そんなこんなで折り返し10kmである。タイムは約57分。私はほとほと疲れた。すぐそばに公園があったので水をがぶ飲みし、復路についたのだがもはや走る気力は失せていた。

なんとか気力を振り絞り走り始めたものの、ふくらはぎと太ももの内側がパンパンで可動域がものすごく狭くなっていた。これが俗にいう「足が棒になる」という状態なのだろうか。脳が動けと脚に命令しても、脚がそれを拒否しているかのようだった。ここで私は完全に身体の要求に屈し、歩くのも厭わなくなった。

 

歩きながら景色を見てみると、沿道にはとても大きなスーパーマーケットがちらほらある。お金をもっていたらスーパーに飛び込み、CCレモンを買っていたことだろう。

 

歩くのもなかなかつらいもので、これまで食べたおいしいものが無性に食べたくなった。祖母の味噌汁、Raraのインドカレー。このマラソンが終わったらRaraに行くことにしよう。

 

札樽道が見えてきた。あと3kmほど走れば(歩けば)Raraに行ける!

少し元気が出た私は走り出したものの300mほどしか持たなかった。脚がすぐパンパンになり、前に出すのがつらくなる。ここで歩いてしまうのは私の甘えなのだろうか。

 

なんとか21km走り切り、タイムは2時間30分。とんでもない記録である。あんなに歩いたのに。走り終わった後は気分が悪くなり、熱中症のような症状に見舞われたが、Raraへ向かうことにした。けっこう元気な自分もいることにほっとした。